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高松高等裁判所 平成7年(ネ)241号 判決

控訴人

中村嘉孝

右訴訟代理人弁護士

藤原充子

小泉武嗣

被控訴人

中村次郎

外六名

右七名訴訟代理人弁護士

山下道子

被控訴人

有限会社暖流

右代表者仮代表取締役

山下訓生

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  控訴人が原判決別紙目録記載の被控訴人有限会社暖流の持分二〇〇口(ただし、控訴人に帰属することにつき当事者間に争いがなく、当審で請求を減縮した六〇口分を除く。)を有することを確認する。

第二  事案の概要

次に補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄第二の記載のとおりであるから、これを引用する。

一  二枚目裏五行目の「有限会社暖流」を「被控訴人有限会社暖流」に、同七、八行目の「他の社員持分権者に対して」を「社員持分権者であると主張するその余の被控訴人ら七名に対して、被控訴人有限会社暖流の持分二〇〇口のうち、控訴人に帰属することにつき当事者間に争いのない六〇口を除いたその余の一四〇口の持分が」に改める。

二  二枚目裏一〇、一一行目の「昭和六三年一二月二七日付作成の公正証書遺言」を「昭和六三年一二月二七日作成を嘱託した高知地方法務局所属公証人細谷茂久作成昭和六三年第一八三四号遺言公正証書」に、三枚目表六行目の「定款により」を「定款(原始定款)上」に、同七行目の「以下被告次郎」という」を「以下「被控訴人次郎」という」に改める。

三  三枚目裏一〇行目の「経営していが」を「経営していたが」に、四枚目表一行目の「税務対策」を「税金対策」に、同五行目の「税対策上、同族会社であることの判定のため」を「税金対策上、同族会社の判定回避のため」に改める。

四  四枚目表九、一〇行目を次のように改める。

「被控訴人有限会社暖流の社員は忠義だけであり、同人の死亡により、包括受遺者の控訴人が被控訴人有限会社暖流の持分全部二〇〇口を有するか。」

第三  争点に対する当裁判所の判断

一  証拠(原審証人中村こずえ、原審・当審証人中村千賀子、原審における被控訴人高橋潔子本人・被控訴人中村舜一本人、原審・当審における被控訴人中村次郎本人、認定事実中括弧書きの証拠)を総合すれば、次の事実が認められる。

1  忠義は、高知市帯屋町等で土地建物を所有していた(甲五、九、一〇、三〇)。忠義は、昭和三八年ころから、その帯屋町の土地に隣接する土地上の建物を賃借した上、この賃借建物と右の帯屋町の土地に在った建物で小料理屋「暖流」や喫茶店「ペンギン」などを経営していたが、昭和五十一、二年ころ、娘の千賀子の夫の被控訴人次郎から勧められ、それまでの個人営業を法人成りさせ、右賃借建物敷地を買い受けた上、右各建物を取り壊して、鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付五階建のビル一棟(以下、原判決同様「本件ビル」という。)を建築し、本件ビルで法人組織で飲食店や喫茶店等を営むことを企図した。忠義は、昭和五二年八月二七日、被控訴人有限会社暖流(出資一口の金額一万円、資本の総額二〇〇万円。以下、原判決同様「被控訴人会社」という。)を設立し(甲一三)、同年九月一日、株式会社品原建築設計事務所に本件ビルの建築を代金四〇二四万円で注文し(甲一一)、本件ビルにつき、昭和五三年六月二四日、所有者を忠義とする区分建物表示登記を申請し、その後、所有者を被控訴人会社と更正し、同年七月二九日、被控訴人会社の所有権保存登記を経由した(甲一二)。なお、同年九月八日、株式会社伊豫銀行高知支店に被控訴人会社名義の普通預金口座が開設され、二〇〇万円が預け入れられている(甲八の1・2)。

2  被控訴人会社を設立するに際して、忠義は、被控訴人次郎や同被控訴人の実兄である被控訴人日比と相談の上、被控訴人会社の社員を忠義(五〇口)、被控訴人次郎(六〇口)、忠義の娘で被控訴人次郎の妻であった中村千賀子(六〇口)、被控訴人日比(一〇口)、忠義の内縁の妻であった被控訴人高橋(一〇口)及び忠義のいとこの子で税理士事務所に勤務していて忠義の帳簿をみてきた被控訴人中村(一〇口)の六人とすることとした。その忠義の意向を受けて、昭和五二年八月一五日、タイプライターで作成された被控訴人会社の原始定款(甲一五)の忠義、被控訴人次郎、中村千賀子、被控訴人日比、被控訴人高橋及び被控訴人中村の各名下に、右各人の印章が押捺された。

以上のとおり認められる。原審証人中村こずえ及び原審・当審証人中村千賀子の各証言中、甲一五の定款の忠義を除くその余の者の関係部分が各関係者の意思に基づかずに作成されたようにいう部分は、原審における被控訴人高橋潔子本人・被控訴人中村舜一本人及び原審・当審における被控訴人中村次郎本人の各供述に照らして、にわかに信用することができない。

二  ところで、有限会社法六条・八七条によれば、有限会社の原始社員となるには、定款に社員の氏名及び住所並びに各社員の出資の口数が記載され、その者が定款に署名又は記名捺印することを要し、それにより、有限会社の社員となる者及びその出資義務が確定するのであり、出資義務の履行が当該社員によってなされることは、有限会社の社員の確定の主要事実(要件事実)ではなく、当該社員以外の者によって出資義務の履行がなされることは、民法四七四条の第三者の弁済として有効である。これを本件についてみると、前記一の事実関係の下においては、忠義は被控訴人会社の持分五〇口を有する社員となったにすぎない(他の社員の出資金を忠義が当該社員に贈与した。)と認めるのを相当とする(平成二年法律六四号による削除前の有限会社法六九条一項五号においては、社員が一人となることが有限会社の解散事由と定められていたのであり、この点に照らしても、控訴人の主張するように、被控訴人会社の原始社員が忠義一人であったとみることは難しい。)。

なお、証拠(甲一六、一七、一九の1・2、二〇〜二三、二八の1〜7、二九、原審証人中村こずえ、原審・当審証人中村千賀子、原審における被控訴人高橋潔子本人・被控訴人中村舜一本人、原審・当審における被控訴人中村次郎本人)を総合すれば、被控訴人会社の設立後忠義死亡までの間における社員及びその持分の変動は、おおよそ原判決別紙「(有限会社暖流の出資名義の変動について)」記載のとおり(ただし、出資名義人欄に「裕二郎」とあるのは「祐二郎」の誤り)であるところ、いずれも忠義が決定していたことが認められるが、前示のとおり、他の社員の出資金を忠義が当該社員に贈与していた(なお、前示一1の事実によれば、忠義は、他の社員の出資金のほか、被控訴人会社の開業資金を出したことを推認することができる。)ことから、他の社員は、忠義の決めることに反対できず、承認してきたものと考えられるから、右の事実は、前記認定判断を妨げるものとはならない。

第四  結論

そうすると、控訴人の本件請求は理由がないから、これを棄却すべきである。したがって、原判決の結論は正当で、本件控訴は理由がない。

なお、原判決主文第一項は、当審における請求の減縮により、失効した。

(裁判長裁判官 渡邊貢 裁判官 豊永多門 裁判官 奥田正昭)

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